書名 | 傲慢と善良 |
著者 | 辻村深月 |
発行年 | 2019年 |
タグ(ジャンル) | 文学小説 |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。生きていく痛みと苦しさ。その先にあるはずの幸せ──。
引用元:朝日新聞出版オフィシャルサイト
読後の感想
ストーカーに誘拐された(または失踪した?)婚約者を探すために、主人公の男性が彼女の実家の両親や知人たちと会って話をしながら行方を探すというのが、物語の前半である第一部。
その過程で徐々に彼女の本質に気づいていくのだが、この辺りの描写がかなり長い。ふだんミステリーばかり読んでいるので、本作のように登場人物たちの心理描写が延々と続くのが、少し耐えられなくなるというのが実情だった。
一言でいうと、クドい。婚約者の居場所の手がかりを掴むため過去の関係者を探して会うたび、相手の人物の人格や主張などの考察にかなりのページが割かれ、「もうイイから先に進んでくれよ」と思いながら読んでいた。確かに身につまされるように理解できる心移りや人生観が文字として綴られ、妙にリアリティがあって感心させられるが、あまりに長いと辟易してしまう。
これはミステリーファンの悪い癖でもある。
正直なところ、これがエンディングまで続くようなら、もう読むのを止めようかとも迷ったほどだ。
ところがこの第一部の終わり頃から突如グイッと物語に惹き込まれ、そのまま第二部に突入してからは、終わりまでノンストップである。
前半の第一部とは180度変わって、第二部はどんどん話が進む。しかも第一部の様々な事柄に対する真相が惜しげもなく出てきて、同じ事象でも視点が違うとこうも印象が異なるのかと、読んでいて唸らされる内容だ。
なぜ彼女は婚約者の前から消えたのか、何があったのか──。それを解き明かす過程で、登場人物たちの会話の中で、タイトルの「傲慢」と「善良」という定義が何度も読者にも提示され、重くのしかかって来る。
決して不快な作品ではないが、読んでいて少し心が痛む場面もない訳ではない。でもそれを乗り越えて読み進むことに、本作の1つの存在意義がある。
第二部だけなら星5つだが、個人的には第一部が退屈だったので、星4つとした。でも良質な作品であることは間違いない。読んで良かった。
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