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【本】体育館の殺人/青崎有吾

書名体育館の殺人
著者青崎有吾
発行年2012年
タグ(ジャンル)ミステリー小説
個人的評価★★★★★

あらすじ

風ヶ丘高校の旧体育館で、放課後、放送部の少年が刺殺された。外は激しい雨で、密室状態の体育館にいた唯一の人物、女子卓球部部長の犯行だと警察は決めてかかる。卓球部員・柚乃は、部長を救うために、学内一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。アニメオタクの駄目人間に──。

引用元:東京創元社オフィシャルサイト

読後の感想

 いや〜、これは面白かった。単にAmazonプライム会員なら無料だったので読み始めただけだが、そうでなければ普段ハードボイルドや重厚な小説を好んでいる自分が、ライトノベルのような表紙やあらすじの本作を買うことはまずなかったと思うので、そういう意味では実にラッキーだった。
 学園モノで探偵役がアニメオタク、軽妙な筆致とコミカルな登場人物。個人的にはまったく興味の湧かない作品だが、内容的には紛うことなき本格推理小説である。

 小学生の頃に江戸川乱歩の『怪人二十面相』や『少年探偵団』などを読んで、犯人の推理やトリックの妙に惹かれて探偵小説にハマり、以後40年近くその手の作品を読み漁って来た。しかし実際には当時から「推理小説」は絶滅に瀕しており、それを誤魔化すかのように広義の意味で「ミステリー」という呼称が使われ、現在に至っているのが実情だ。
 どんでん返しはあったとしても、犯人の推理やアリバイトリックといった要素は乏しく、乱歩賞受賞作でも内容的には単なるサスペンスだったりもする。一時期、綾辻行人らによる「新本格」というムーブメントはあったが、決してメインストリームではなかった。
 自分が若い頃に心を踊らせた、最後の章で探偵がそれまでの謎を一気に解き明かしていく興奮を味わえる作品は、もうほとんど出てこないのかと寂しく思っていた。

 そんな中、偶然のようにたまたま読んだ本作が、まさに「推理小説」だった。
 ネタバレになるので詳しくは述べないが、章立てなどの構成に古典名著へのオマージュがあり、さらに謎解きとなる最終章の前に、作者から読者への挑戦状まで記されている。作中の探偵が事件解決に至るまでのヒントは全て、その時点で読者にも提示されているというフェアー宣言だ。後になって「実はあのとき現場でコレを見つけていたんだ」なんていう後出しジャンケンは、一切ない。
 何より、それまで探偵役の人物が周りの人からは事件に関係があると思えない調査や質問を繰り返してきた伏線が、最終章で一気に回収されていく快感こそ、忘れていた「推理小説」の醍醐味である。

 冒頭で述べたように、軽いタッチの文体で重厚さは皆無だし、謎解きの論理にやや強引さはあるが、それでも十分な完成度だろう。
 ここ10年以上、読んだ本は全てブクログかEvernoteに感想と評価を残しているが、直近で星5つを付けた作品は、なんと2016年だった。我ながらビックリである。
 この「体育館の殺人」が5年に一度の傑作とまでは言わないが、個人的には数年ぶりのヒット作であった。


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