書名 | 復讐の協奏曲 御子柴礼司 |
著者 | 中山七里 |
発行年 | 2020年 |
タグ(ジャンル) | ミステリー |
個人的評価 | ★★★★☆ |
あらすじ
三十年前に少女を惨殺した過去を持つ弁護士・御子柴礼司。
引用元:講談社BOOK倶楽部
事務所に〈この国のジャスティス〉と名乗る者の呼びかけに応じた八百人以上からの懲戒請求書が届く。
処理に忙殺されるなか事務員の洋子は、外資系コンサルタント・知原と夕食をともに。
翌朝、知原は遺体で見つかり、凶器に残った指紋から洋子が殺人容疑で逮捕された。
弁護人を引き受けた御子柴は、洋子が自身と同じ地域出身であることを知り……。
読後の感想
少年時代に、幼い少女を殺害した上バラバラにしてあちこちに放置するという、凄惨な犯罪を犯した弁護士が主人公の御子柴シリーズ。早くも本作が5冊目だ。
彼が日本中を揺るがした少年犯罪者であることは、確か2作目あたりで世間に知られる展開となっているため、以降の続刊はその前提で物語が進行する。本作もストーリーはこの1冊で帰結しているものの、人間関係などは過去作を読んでいないとピンと来ないので、いきなり本作から読むことはオススメできない。
その上で個人的な感想を言うと、これまでの5冊の中で最も夢中になったのが本作だった。
今回スポットが当たるのは、御子柴の弁護士事務所に勤めるたったひとりの事務員である。
相棒ではなくあくまで事務員なので、これまで作中に頻繁に登場してきた女性ではない。ただ過去作でも何度か、御子柴自身が「なぜ彼女は今も変わらずこの事務所に勤めているのか? 過去に凄惨な殺人を犯した私が怖くないのか?」と不思議に思うシーンが挿入されていた。
御子柴が殺人者だったことが分かった後でも、それまでと変わらず御子柴に接し、たった一人で黙々と事務作業をこなす彼女。本編の物語とは関係がないので、これまでは全く膨らまずにスルーされてきた本シリーズの謎の部分だった。
その謎がついに読者に明かされるのが、本作「復讐の協奏曲」である。
今回、彼女が実は御子柴が少年時代に惨殺した少女の幼馴染であることが判明する。作者がシリーズ当初からその目論見でこの事務員を登場させていたのかどうかは分からないが、過去作で彼女が御子柴を恐れずに二人きりで働いていることの不自然さを読者に提示しているので、いつかは何らかの役割を持たせるつもりだったのかもしれない。
そしてこれまで単なる脇役で露出度も低かった彼女だが、本作では殺人の容疑者として逮捕されるに至り、ようやくこの事務員の心情なども語られることになる。思ったよりあけすけで、さっぱりした女性のようだ。
何より、御子柴との会話のテンポが良い。彼女と会話を交わすたびに、これまで以上に御子柴のキャラクターが強固に造形されていくようで、彼のセリフの切れ味と魅力も、本シリーズで一番だろう。
女性事務員が逮捕されてすぐに面会に訪れた御子柴とのアクリル板越しの会話の中で、帰り際に交わされたやりとりが実にこのシリーズらしい。
「先生、まだ一番重要なことを訊いてませんよ。わたしが知原さんを殺したかどうか」
「関係ない」
「はい?」
「君が殺人を犯していようがいまいが、必ずそこから出してやる」
内容的にはそれほど込み入ったストーリーではない。中山七里氏らしい読みやすい文体で、必要以上に登場人物の心情や考えを長々と語られて辟易するシーンも皆無で、一気読みしてしまう人も少なくないはずだ。
ふだんハードボイルド小説を好んで読んでいる身としては、もう少し終盤に深みが欲しかったと思い、星5つにはしなかったが、間違いなく水準を遥かに上回る秀作である。
シリーズ5作目にしてここまでリーダビリティに富んだ作品に仕上がってしまうと、次回作も愉しみにならざるを得ない。
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