GENESIS の初期の作品が昨年末に突然、Analogue Productions から45回転2LPとして再発された。
ただし、1枚あたり1万円代前半という価格設定。さすがにすべて揃えるのは財布に厳しすぎる。
なので、彼らの作品の中でも圧倒的に好んで聴いてきた 「SELLING ENGLAND BY THE POUND」 だけを購入した。
SELLING ENGLAND BY THE POUND/GENESIS
アーティスト | GENESIS |
タイトル | Selling England by the Pound |
カタログNo. | APA 002-45 |
プレス国 | アメリカ |
始めに結論を書くと、ちょっと微妙な仕上がりである。
そもそも70年代の GENESIS の作品は、どれも録音状態が良いとは言い難い。本作もUKオリジナルを所有していたが、大した音質ではなかった。
それよりもこのアルバムは、何故か日本のリイシュー盤(RJ-7032)のほうが音がイイという説がある。私もその情報をTwitterで見かけ、数年前に興味を持って買ってみたが、確かにその通りだった。日本の再発盤のほうが、UKオリジナルより音が良いのである。
ついでにUKリプレス盤にも手を伸ばしてみたが、やはり日本再発盤に軍配は上がった。(だからUKオリもリプレスも売り払ってしまった)
ちなみにそれ以外に、数年前にリマスターされたLPも買ったことがある。元の音質がヘボいだけに、却ってリマスターの効果が如実に感じられるサウンドではあったが、どこか面白みに欠ける音でもあり、結局はやはり日本盤が最良ではあった。
おそらく当時、国内に腕のあるエンジニアがいたのだろう。
ということで、通算5枚目となる 「月影の騎士」 アナログレコードだったのだが、冒頭で述べた通り、今回の Analogue Productions は、手放しで称賛できるほどではなかった。
確かに Analogue Productions らしいコクと密度はあるが、それだけにリズム隊の軽快さが損なわれているように感じた。
初期 GENESIS の魅力のひとつは、フィル・コリンズ の良い意味での軽いドラムだと思っている。それが、何だかねっとりと足をとられているように、躍動感が乏しく感じられるのである。重い足取りといった雰囲気だ。
音質的には過去のLPより確実に向上しているが、必ずしもそれが感動に繋がっていないのである。
ということで試しに、サブスク(Apple Music)のデジタル・リマスター音源と聴き比べてみた。サブスク音源は、高音(特にハイハット)が綺麗に分離され、細かい演奏がきちんと聴こえる。この辺りはどのLPでも聴き取れなかった部分だ。
はっきり言って、音質だけで判断すれば、このサブスク音源が断トツのトップだろう。繰り返すが、もとのアナログ音源の音が精彩を欠きすぎているのである。
ただし、だからといってサブスクが最も感動できるかというと、困ったことにこれもまた微妙だ。
音楽を聴くことの、なんと難しいことか。
とりあえず現時点では、「Analogue Productions盤」と「日本再発盤」と「サブスク音源」の3つは、甲乙付けがたい状況だ。
ま、この作品に関してはサブスクで十分ということになるかな。
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以前の「RED/KING SRIMSON」のLP購入記録と同様、今回も20年ほど前に運営していた「若人のためのロック講座」 というレビューサイトのアーカイブから、本作についてもレビューを転載させてもらおうと思う。
これも長い記事なので、抜粋しての転載とさせて頂く。
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「イギリスらしいロックってどんな音楽?」 と訊かれたら、私は黙ってこのアルバムを渡して、コレを聴け、と言うだろう。 GENESIS の6thアルバム 「SELLING ENGLAND BY THE POUND~月影の騎士~」。
初期の GENESIS ほど英国の香りを発散するグループは、そう居ない。幻想的で奥行きのあるサウンド、深みのある楽曲、ブラック・ジョークと何重にも含みを持たせた詩など、どこを切っても英国印である。
80年代以降の GENESIS は、フロント・マンの フィル・コリンズ がソロ・シンガーとしてスターダムにのし上がるのと並走するようにPOPS路線をひた走ってしまったが、 ピーター・ガブリエル がボーカリストとして在籍していた初期の彼らは、「五大プログレ・バンド」に数えられるほどのプログレッシブ・ロックを展開していた。世界中で彼らのスタイルを模倣する者が続出し、後のロック界に多大な影響を与えたのは、この頃の GENESIS である。少なくともフォロワーの数だけでいえば、「五大」のバンドの中でも一番だった。
その ピーター・ガブリエル(vo) 在籍時のアルバムで最も分かり易いのが、’73年発表の本作 「SELLING ENGLAND BY THE POUND~月影の騎士~」 である。もちろん「分かり易い」とは言ってもプログレッシブ・ロック作品であるため、一般リスナーには充分「変」なアルバムだ。
そもそも ピーター・ガブリエル(vo) が存在するだけで奇妙な雰囲気が醸成されてしまう。彼はその声質や歌いまわしからステージ・パフォーマンスに至るまで、とにかく「変」なミュージシャンだった。声色の使い分けや、変な所でコブシをまわしたり変な所にアクセントを入れたりするなど、良くも悪くもそのボーカル・スタイルは極めて個性的で、 GENESIS 脱退後のソロ・アーティストとしての活動時も、その変な個性にあまり変化はなかった。それでも全米No.1ヒット・ソング 「Sledgehammer」 などを産み出したのだから、大したモンである。
その ガブリエル が誰もついて行けない難解な世界を演出したのが、 GENESIS 史上最高の芸術作品で最大の問題作 「THE LAMB LIES DOWN ON BROADWAY~眩惑のブロードウェイ~」(’74) だった。何十回聴いても全容がつかめない支離滅裂な作品で、このアルバムを最後に彼は GENESIS を脱退することになるが、そのひとつ前にあたる 「SELLING ENGLAND BY THE POUND」(’73) が、今回ご紹介するアルバムである。 「眩惑のブロードウェイ」(’74) に比べれば、5倍ぐらいは聴き易い。
①「Dancing with the Moonlit Knight~月影の騎士~」 は、本作中もっとも「変」な曲である。ピーター・ガブリエル(vo) がアカペラで歌う変なイントロで幕を開け、変な構成のメロディ・パターンが変なサウンド・プロダクションで進行する作品。2~3回聴いただけでは曲の全体像がつかめないが、聴けば聴くほどクセになる妙な曲だ。
「エフェクターの魔術師」 スティーブ・ハケット(g) による、どう聴いてもキーボードにしか聴こえない中盤のギター・ワークなども非常に独創的だが、コロコロと表情を変える曲構成が何とも魅力的である。でもやっぱり何か変だ。
③「Firth of Fifth」 は、シンフォニック・ロックのバイブルとでもいうべき名曲。本アルバムのハイライト・チューンでもあるこの曲の最大の聴き所は、間奏部分のギターソロにある。間奏の前半は、音楽面で GENESIS のイニシアティブを握っていた トニー・バンクス による優雅でファンタジックなキーボードがメインだが、後半は一転して妖艶で叙情的な スティーブ・ハケット のギター・ソロがたっぷりと堪能できる。「速弾き」の「は」の字もない1音1音を長ーく伸ばしたフレーズがほとんどだが、絶妙なチョーキングとハンド・ビブラートを駆使した幽玄なプレイは、ブリティッシュ・ロック界でも屈指の名演だ。
しかし真に優れているのは、プレイ以上にサウンドであろう。スティーブ・ハケット(g) はこの曲で極度に幻想的かつ湿り気のあるギター・サウンドを構築することにより、「メロディ」ではなく「音」で聴く者の涙腺を刺激する離れ業を披露している。この叙情性あふれるギターとみずみずしいキーボードが溶けあった結果、他に例をみない程奥行きのある奇跡的な美しいアンサンブルが形成されていて、現代のデジタル楽器では絶対に再現できない音世界が封じ込まれている。名作である。
⑤「The Battle of Epping Forest」 は、本作中最もちんぷんかんぷんな曲。12分近い作品だが、ピーター・ガブリエル(vo) の独壇場ともいえる楽曲で、始まりから終わりまで彼の演劇風ボーカルが登場しっ放し。これがまた訳わからん。特に中盤の奇妙なテンションで爆走する ガブリエル の歌には追随する術が見出せない。良くも悪くも、80年代の GENESIS にはない曲である。
⑦「The Cinema Show」 は、後々も彼らのライブでメドレー形式にアレンジされるなどして登場する定番ソング。これも10分を超える曲で、後半の7/8拍子で疾走するリズムと、その変拍子に違和感なくメロディを乗せる トニー・バンクス のキーボード・プレイは驚くほど流麗だ。 GENESIS 以外の何物でもない曲である。
GENESIS の詩世界はファンタジックで極めて童話的である。しかしそれは牧歌的なのほほんとした内容ではなく、寓話の裏側に潜む奇怪で邪悪な狂気性にスポットを当てているものがほとんどだ。子供向けの童話ではなく、「ホントは怖い大人向けのグリム童話」である。ピーター・ラビットよりもマザー・グースに近い。
ピーター・ガブリエル(vo) を媒体としてこの世界観をシアトリカルに表現したのが、初期の GENESIS だった。本作においてもそうした要素は満載である。
また、各メンバーの演奏技術の向上によって表現力が豊かになったことも見逃せない。デビュー当時の彼らはお世辞にもテクニカルとは呼べないブループだったが、本作あたりではすでに充分な演奏力を習得していて、特に フィル・コリンズ(dr) などは本作以後も急成長を続け、BRAND X (ブランド・エックス) というジャズ・ロック・ユニットにも参加するほどのプレイヤーに育った。その後の彼が、ドラマーではなくシンガーとして名を馳せてしまったのは、個人的には非常に惜しいことだと思っている。
ポンドでイギリスを売ります──。
意味深なタイトルが付けられたこのアルバムは、日本では特に人気の高い作品だ。毒々しさはあまりないが、代わりにとっつき易く温かみのある作風に仕上がっている。
少なくとも ピーター・ガブリエル(vo) 在籍時のアルバムをロック初心者に勧めるのにまず本作を挙げることには、誰も異論はないだろう。①「Dancing with the Moonlit Knight~月影の騎士~」 や ③「Firth of Fifth」 といった GENESIS 作品群の中でも重要な名曲が収録されているし、個人的には③だけのためにこのアルバムを購入しても何ら損はないと思う。
間違っても 「眩惑のブロードウェイ」(’74) などから入ってはいけない。
「シンフォニック・ロックってどんな音楽?」 と訊かれたら、私は黙ってこのアルバムを渡して、 ③「Firth of Fifth」 を聴け、と言うだろう。
<若人のためのROCK講座 (2005.10.26投稿分) より抜粋転載>
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どうもお久です。
実は俺も今年の1月からブログ始めたのだけれど、慣れないこともあり、文章書くのに四苦八苦していて日々の時間が足りず、久々のコメントになります。
そのジェネシスの『Selling England by the Pound』は、一時CDを持っていたのだけれど、今一よくわからなかったので、割とすぐに売り飛ばしてしまったんだよね。
日本盤だったか輸入盤だったかも覚えておりませんが、内容も全く覚えておりません。
『Dancing with the Moonlit Knight』はガゼボがカヴァーしていて、それが1994年のベストアルバムに収録されているので聴いたことはあるのだけれど、どういう訳かそのカヴァー・ヴァージョンは1分47秒で終わってしまうので、曲の全貌はつかめませんが。
と言いつつ、今Apple Musicで聴いてみたところ、これは当時の俺には理解できないと、改めて思った次第であります。
これ 2007 Stereo Mix となっているけれど、当初はモノだったのだろうか?
というか、このStereo Mix自体ステレオ感がほとんど感じられないというか、音の定位が良くないところが、元々のアナログ盤の音質が今一に感じてしまう原因なのだろうか??
『Firth of Fifth』は聴いてみたところ、展開がことごとく変わる交響曲という事がわかりました。
間奏のピーター・ガブリエルのオーボエにも感動してしまった。
というかピーター・ガブリエルがオーボエを吹くなんてことを知らなかったので、驚いてしまった。
また、今聴いてみて、確かに後のロック界に大きな影響を与えているなと感じ、今思い浮かんだだけでも、特にカンサス、サヴァタージとかもそうだし、イングヴェイもだよね??
それから、その「若者のためのロック講座」というサイトってもう見れないの??
確かそのサイトを2年位前に偶然みて、読んでいる内に「あれ、これもしかしてヨリヨリじゃないかな?これぜったいそうだよ?」と思ったのでありました。
あのサイト面白かったので、また読みたいよ~!!
ナベさん!
すいません、全然連絡してなくて!
ブログ始めたんですね。少しだけ拝見しました。
最近何かと時間がなくて、また落ち着いた時にじっくり読ませてもらいます!
やっぱりでも、音楽ネタですね (笑)
「若者のためのロック講座」は、無料のサーバーを借りてUPしてたんですが、少し前にサーバー運営会社から「これからは有料になりますよー」と連絡が来たので、引き払ってしまいました。
僕のPCにはアーカイブを残してはいるんですが、ネット上からはもう消滅してます。
あのサイトは毎回、結構な分量を書いてたので、割と読んでもらえる人は多かったんですけどね。
今のこのブログに比べると、段違いに閲覧者もいました。
ただまだスマホのない時代のサイトで、スマホ用画面にもならないので、今あったとしてもあんまりアクセスしてくる人はいないかもとも思います。
ちょくちょく、ブログ見に行きますんで、期待しとります!