解散発表の直後にリリースされた、KING CRIMSON のラスト・アルバム 「RED」 。(後に再結成しているので、ラストと断じるのも何だが。。)
先日この名盤のUKオリジナルを購入したので、記録として残しておきたい。
RED/キング・クリムゾン
アーティスト | KING CRIMSON |
タイトル | RED |
カタログNo. | ILPS 9308 |
プレス国 | イギリス |
このアルバムは以前、USオリジナルを持っていた。
音楽そのものはロックでいえば圧倒的に、米国より英国のバンドのほうが好きなのだが、自宅オーディオが McIntosh(アンプ)+ JBL(スピーカー)というアメリカンなシステムなためか、レコードに関してはUK盤よりUS盤のほうが好みの音で鳴ることが事が少なくない。
ということでこの 「RED」 も、大きな期待を込めて少し前にUSオリジナルを入手したのだが、率直なところピンとこないサウンドだった。
大学生の頃から30年以上にわたって幾度となく愛聴してきた作品なので、さすがに飽きが来たのかなと思いながら、いずれにしても率先して聴きたいLPにはならなかったので、しばらくして売り払ってしまった。
そして先日、たまたまUKオリジナル盤がほんの少し安価に売られていたのを見つけたので(それでも十分に高価だが)、試しに買ってみた。
一聴して気に入った。実に聴きやすい音だ。
あまりメタリックなサウンドではなく、良い意味で丸っこい、アナログらしい音である。それでいて迫力はあるし、衝動的でもある。ギターの歪み具合も絶品だ。
バスドラの沈み具合と柔らかさも好みで、ブーミーな低音になりやすい我が家のシステムでも、心地よく響いてくれる。
はじめに2度、通して聴いて、これは良い買い物をしたと確信した。これは繰り返し聴きたくなる音だ。CDでは退屈でつい曲飛ばししてしまうB1 「Providence」 でさえ、きちんと聴けてしまう。
以前に持っていたUSオリジナルとの差は何なのだろうか。
当時とはスピーカーが変わっているので、単にそれが大きく関与している可能性は低くないが、それにしても個人的な嗜好としては圧倒的にUKオリジナル盤のほうが好みだ。
やはりイギリスのアーティストは、UKプレスを選ぶべきか。
こうなると俄然、USオリジナルで満足している YES の全盛期のアルバムも、UKオリジナルが欲しくなってくるな。。
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<< 2023.8.26 追記 >>
20年ほど前になるが、「若人のためのロック講座」 という、レビューサイトを運営していた。最後に更新してから10年以上が経過し、昨年そのサーバーも有料化され、維持費用もお支払いしていないため、現在ではサイトへアクセスすることはできない。
自宅PCにはアーカイブを残しているので、せっかくだからそのサイトでレビューした 「RED」 の投稿を、下記に転載させて頂こうと思う。
我ながら長い記事の多いレビューばかりだったので、抜粋しての転載とさせて頂く。
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KING CRIMSON ── 半世紀を越えるロック史の中でも、最も重要なアーティストのひとつにして、「プログレッシブ・ロック」という音楽を構築したともいえるブループである。
’69年に 「クリムゾン・キングの宮殿」 で衝撃的なデビューを飾り、以後、度重なるメンバー・チェンジを繰り返しながら驚異的な進化を遂げ、’74年に一旦解散してしまった KING CRIMSON は、まさにこの世に2つとないバンドだった。斬新な音楽性、高度な演奏技術、存在価値、創造力、作品の質、後世への影響など、どれをとっても超A級だった。
60年代後半に MOODY BLUES (ムーディー・ブルース) が示した、ロック音楽におけるメロトロンの使用方法論をさらに押し進めて前人未到の叙情性を演出し、同時に当時としては世界一と表現しても過言ではないヘヴィネスを有機的に結合させた、デビュー・アルバム 「クリムゾン・キングの宮殿」(’69) 。そしてデビュー早々からメンバー・チェンジを繰り返し、オリジナル・メンバーが ロバート・フリップ(g) ただ一人となったバンド史上最強のラインナップによる中期クリムゾンの傑作6th 「太陽と戦慄」(’73) 。
こうした歴史的名盤を創造し続けてきた KING CRIMSON が最後に到達したのが、 ロバート・フリップ(g) 、ビル・ブラッフォード(dr) 、ジョン・ウェットン(b,vo) のトリオ編成で製作された8thアルバム 「RED」(’74) であった。
今回は、その KING CRIMSON のラスト・アルバム 「RED」(’74) をレビューしようと思う。解散発表の直後にリリースされた作品であり、ロバート・フリップ(g) 自身が、「全クリムゾン作品の中でベスト3に入る」と語る名盤だ。
で、まずはタイトル・トラックの ①「Red」 だ。プログレ系アルバムのオープニングとしては珍しく「ほとんど聴こえない事実上無音パート」のないイントロで、ステレオのプレイ・ボタンを押した途端、いきなりちゃんと演奏が聴こえてくる。始まりから終わりまで、このアルバムの作風を暗示するかのような暗さと冷酷性に彩られたインスト曲で、大仰な山場もなく終始ミディアム・テンポで進行する割には、妙に高揚感を煽られる作品だ。
所謂ロック音楽を聴いた際の「テンションが上がる」ということではなく、本作ジャケット裏に描かれたメーターのレッド・ゾーンにゆっくり到達するように、不穏な危機感が積み上げられ、昂ぶっていくかの如きスリリングな迫力が、この曲の最大の魅力だろう。
他バンドでは味わえない楽曲のひとつ。
②「Fallen Angel」 は、本作が KING CRIMSON にとってのラスト・アルバムであることを考慮すれば、極めて感慨深く聴こえる作品だ。終焉に向かうバンドの悲しみを湛えたような曲想で、導入されているサックスのフレーズがダークだが叙情的。
尚、本作での正式メンバーは ロバート・フリップ(g)、ビル・ブラッフォード(dr)、ジョン・ウェットン(b,vo) の3人だが、過去にメンバーだった イアン・マクドナルド(a-sax)、メル・コリンズ(s-sax)、デヴィッド・クロス(vln) らがゲスト参加していて、バンドの終幕を彩っている。特にサックスなどはアルバム全編といっても良いくらいの露出度と重要度だ。
続く ③「One More Red Nightmare」 も実にこのバンドらしい楽曲で、聴き応えのあるインスト・パートの導入や、クリムゾン風の「アメリカン・テイスト」が感じられるボーカル・スタイルなど、なかなかの佳曲に仕上げられている。個人的にはそれほど好きな楽曲ではないが、後期KING CRIMSON が一貫して模索してきた 「リズム」 へのアプローチが、この曲において一応の結実を迎えているようには感じられる。
④「Providence」 は、プログレ音楽特有の「何が演りたいのかよく判らん」パートやインプロヴィゼーション・バトルが満載の、プログレ初心者にはちとキツイ楽曲。ただ、前半は確かに少々退屈かもしれないが、後半のリズム隊のカラミや不気味なバイオリンなどには何やら魅了されるものがあるし、全編を通して貫かれているスピリチュアルな雰囲気は秀逸である。
そして ⑤「Starless」。 多くの人にとっての本作の目玉で、 KING CRIMSON というバンドの有終の美を飾るに相応しい名曲だ。1st「クリムゾン・キングの宮殿」(’69) に出てきた 「Confusion will be my EPITAPH(混沌こそが我が墓碑銘)」 と並ぶ有名な一節 「Starless and bible black(光のない聖なる闇)」 が印象的に歌われる。
メロトロンを効果的に使用した叙情的なイントロから、哀愁漂う唄メロ、中盤での徐々に迫り来る重圧感、終盤のハイスピードで変拍子を駆け抜けるジャズ・ロック風即興演奏、そしてエンディングで高らかに奏で上げられる感動的なメロディによる大団円。
とにかく非の打ち所のない傑作で、暗黒の世界を様々な形でリスナーに提示しながらも、確実に涙腺を刺激する特異な楽曲だ。正確無比なリズムで刻まれる冷徹なギターの反復、不協和音のように響くバンド・アンサンブル、暗くメタリックな曲想など、6th「太陽と戦慄」(’73) で幕を開けた後期 KING CRIMSON の到達点が、この ⑤「Starless」 だったのだと思える。「たった」12分強で、このグループの進化を総括した、真の意味での名曲。
全5曲。すべてが贅肉を削ぎ落としたようなソリッドな楽曲で占められていて、異様に緊張感の高い作品である。
このアルバムを初めて聴いたときに感じたことは、暗く冷たい音空間の中で仄かに湧き上がる赤い興奮だった。モノクロ画の中にアルバム・タイトル 「Red」 の文字だけが赤く塗られた本作のジャケットは、ここに封じ込められたサウンドを実に的確に表しているのだと思った。
暗闇に浮かび上がったメンバー3人の半影顔と、その表情から窺える強靭な精神性、そして作品に対する自信── ラスト・アルバムにして初めてメンバーのポートレートを使用した本作のジャケットこそ、’69年に始まった ロバート・フリップ(g) の「音」への探求が、1つの終局を迎えたことを如実に証明していたのである。
本作「RED」(’74) は、極めて密度が濃い。サウンドの密度ということではなく、必要な音だけが収められていて、無意味な装飾やつなぎがないという意味でである。④「Providence」 を除けば、ここにあるどの楽器のどの1音をとっても、おろそかにすべきではない存在意義があるように感じられるし、だからこそこのアルバムと対峙するには、並々ならぬ集中力と精神力を必要とされるのだろう。
①「Red」 に始まり、⑤「Starless」 を聴き終えたときの虚脱感は、唯一無二のものだ。これが本作を名盤たらしめている1つの要因であり、星の数ほど存在する他の「ロック作品」との決定的な差異である。当時この作品ですべてを出し切った ロバート・フリップ(g) がその後3年間、音楽業界から離れてしまった心情が、痛いほどよく判る内容だともいえる。
──キング・クリムゾンはいつも同じだったし、いつも違っていた。
かつて ロバート・フリップ(g) は、KING CRIMSON の歩みを振り返ってこのように述べたことがある。
KING CRIMSON は、常に「進化」という至上命題を持って活動した不世出のバンドだった。「プログレッシブ・ロックのバイブル」となったデビュー作 「クリムゾン・キングの宮殿」(’69)に安住せず、常に高みを目指して変貌を遂げていった彼らは、「目的を持った集団」という意味では「いつも同じ」だったものの、残された作品群は音楽性に明らかな変化があって「いつも違っていた」のである。陳腐な表現になるが、彼らは真に「偉大」なブループであった。
そもそもラスト・アルバムでこれほどの傑作を作り上げた事実だけでも、このバンドの存在価値は証明されている。他のバンドの「ラスト・アルバム」と比べて頂ければ、本作 「RED」(’74)が尋常でないクオリティを誇っていることは明白だ。あらゆる面からみて、これほどのグループはもう出てこないのではないかと思う。
しかし残念ながら、その KING CRIMSON の解散によって、それ以後のプログレ界が「プログレッシブ」でなくなっていったことも事実だ。彼らが不在となったプログレ音楽が、特筆すべき進化を遂げられないまま現在に至っていることもまた、疑いようのない真実であろう。
本作 「RED」(’74) の発表は、「プログレッシブ・ロック」音楽そのものの衰退の始まりでもあったのである。
<若人のためのROCK講座 (2008.2.27投稿分) より抜粋転載>
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